佐藤健二「ライフヒストリー研究の位相」

 『口述の生活史』はライフヒストリー研究において大きな衝撃を与えた。しかし社会学においてライフヒストリー研究は未だに方法として確立しているとは言いがたい。その原因解明のための論考。従って、中野の内容自体ではなく、ライフヒストリー研究というものが、社会学でどのような公用があるのか、またその調査のための意識、手段について述べているものである。
 ライフヒストリー研究をとることで、1/個人という点で、これまで見過ごされて来た対象を自覚化できる。2/1を受けて、個人の「生活」という具体的なこと対象と出来る。3/調査者と被対象者の関係について自覚的になるという問題、このこれまでの社会学での問題を解消できるとしている。
 1については「統計的研究法」と「事例研究法」や量的と質的の対立があるともされてきた。しかしこの二項対立よりも、むしろ関係性を抽象的な枠組みにしてしまう「社会学的な認識」が問題となる。 3については、1/口述の現在性、2/口述の主体、3/口述の現代性に留意する必要がある。
 ライフヒストリー研究は資料としての価値がある。その為にも資料の処理・整理、問題意識と構築方法が問題となってこよう。
 やはり質的/量的の二項対立への批判という立場、テープ等のテクノロジーの存在の及ぼす影響という点に佐藤なりの意識が大きい。