「皮膚ー自我」 ディディエ・アンジュー

自我における皮膚の存在を精神医学の観点からといた本。というのは、人が幼児期の母親との密な接触から感覚の発達させ、次第に自他の区別をしていき、自我を形成させて行く課程で、触覚と言う皮膚感覚が鍵となるためである。
第一部では筆者の上記の主張と、基本となるデータ、概念、形成課程について述べる。
第二部では研究における先駆者、フロイトとヘェダーンの考えを論じた後、第一部の考えや概念を補足していく。
第三部は嗅覚や苦痛などの要素を交えつつ、様々な精神障害患者において、どのような症例で皮膚にどのような反応が出ているかを述べている。
全体として具体例が多く、精神医学に明るくなくとも読むことができる。しかし逆に例が、皮膚に結び付けようとし過ぎる感が否めない。
とはいえ、身体イメージにおける皮膚が防護とも通過膜ともなる状態をふんだんに表している。また、皮膚が「触覚的な感覚神経の痕跡を刻むこむ機能」を持つこと、そしてそれが社会集団の帰属をも明らかにすること、またそれが消されたりこそげ落とされたり、重ね書きされながら「保存」されるものであるとするのは、重要な指摘である筈だ。